Setting Grimoire
登場人物
迷宮に足を踏み入れた者の数だけ物語がある。だがその大半は、帰らなかった者の物語だ。ここに記すのは帰ってきた者たち──あるいは、帰るつもりのない者たちの記録。
「君」
ライカード王国 魔導散兵 / 全能者(エルシャダイ)| 職業 | 魔法使い(マスターランク以上) |
| 戒律 | 善(GOOD) |
| 出身 | ライカード王国 魔導部隊 |
| 現在地 | アヴァロン迷宮都市 → 大迷宮最深部 |
黒いローブを着た青年。
その実態はライカードという異国より来訪したキチガイである。あらゆる魔術、神聖術を行使するが“この世界の”術ではない。
戒律は善。困っている者を見れば無償で助ける。ただし助け方がこの世界の常識とは噛み合わない。馬小屋で眠ることを好み、鉄錆びた死生観と妙に人懐こい笑顔を同居させているクレイジーな冒険者だ。
──ライカード魔導散兵 第1-041号より
キャリエル
幸運の女神 / ソロ探索者| 職業 | 戦士(軽装剣士) |
| 戒律 | 中立(NEUTRAL) |
| 特技 | 危機察知 |
| 家族 | 病気の妹 |
赤い髪の少女。ソロで探索を続けている。妹の流行り病の薬代を稼ぐけなげな弱者。勘はいいがそれだけだ。
それだけではあるが──その勘の精度を考えれば、それだけで十分ともいえるだろう。
──君の所感
ルクレツィア・フォン・エッセンバウム
降る雪の聖女 / 戦闘聖女(バトル・プリーステス)| 職業 | 司祭(バトル・プリーステス) |
| 戒律 | 善(GOOD) |
| 出身 | カナン神聖国(平民出身) |
| 固有術式 | 聖雪(罪の重みで敵を圧殺) |
カナン神聖国は聖女を一人、迷宮に送り込んだ。白銀の髪。降る雪の聖女。大主教の特命で大悪の調査に赴いた彼女を四人の聖騎士が護衛した。
──が、無様にも失敗。その肉体を浸食され君に襲い掛かる。結果は上半身をミンチにされ惨敗。ただし、そのおかげでこの女は死よりも悍ましい結末から逃れる事ができた。
固有術式「聖雪」。降り注ぐ雪片の一つ一つに問いかける──あなたは善なる存在ですか、と。悪と判定された者は自らの罪の重さで圧殺される。冷気と神聖術の融合。美しく、容赦がない。この術の恐るべきは善悪の判定が彼女の価値観によって行われる事だ。
──カナン神聖国 大主教府 未帰還者報告書(後に訂正)
モーブ
風渡りの聖騎士| 職業 | 聖騎士 |
| 戒律 | 善(GOOD) |
| 出身 | カナン神聖国 |
| 戦闘特性 | 風魔法を駆使した機動戦闘 |
ルクレツィアを護衛した四人の聖騎士のうちの一人。黒い髪のイケメン。
「風渡り」の異名は戦い方に由来する。神聖術で強化した肉体に、出力と指向性を絞った風魔法で高機動戦闘を実現。
良く言えば寡黙。悪くいえばコミュ障。
──ルクレツィアの所感
敵対者
囁く者とは人間が名付けた。名前をつけなければ、恐怖を語ることすらできなかったからだ。
囁く者
歴史を紐解いてみれば、災厄と呼んでよい厄の陰には必ずこれらの存在があった
ジャーヒル
暗黒の大母 / 二邪の一肉を堕とす者
──探索者ギルド注意喚起文書 第41号 附記
シェディム
深淵の聖母 / 二邪の一魂を堕とす者
その他の脅威
その他のキャラクター
主役だけが物語を動かすわけではない。名もなき者たちの選択が、時に世界の天秤を傾ける。
国家と勢力
三つの国がアヴァロンの地下を巡って交わる。一つは戦いを神と崇め、一つは神に戦いを捧げ、一つは戦いの上に街を建てた。
ライカードから来た男に、死をどう思うかと訊いた。少し重い風邪のようなものだ、と笑った。翌日、コボルトに殺された仲間を蘇生教会に担ぎ込み、三十分後には酒場で一緒に飲んでいた。この男たちの国では、死は本当に風邪なのだ。
魔法体系は七段階の位階制。各位階の呪文を一日に九回まで使用できる。
蘇生教会が日常の一部として機能しているため、ちょっと死生観がおかしかったりする。また、「絶対的な神などはいない。いたとしてもそれは殺せる存在であり、神みたいなかんじの魔物である。国教の法神すら実体は宗教組織が作り出したガーディアンゴーレムに過ぎない」と教育する国。
余談だが、ライカードにはNINJAとよばれる者たちがいる。忍者ではなくNINJAだ。彼らは全裸で戦い、手刀で首をはねたりする。諜報活動などは行わない。
──ある女性探索者の手記より
不味いエールで知られる安酒場がある。壁際の席に座ると冒険者たちの怒号と笑い声が頭上を飛び交う。生きて帰った者が飲み、帰らなかった者の席には新しい誰かが座る。それがアヴァロンだ。
オルセイン王国に属するが実質は探索者ギルドの自治領。多種族が共存し、酒場と武具店と命知らずがひしめく雑多な街。ギルドマスターのグロッケンが秩序を維持し、等級制度で探索者を管理している。
大迷宮からは希少な資源、武具、魔法の道具が出土する。それを求めて各国から傭兵や冒険者が集まる。
──探索者ギルド広報誌 第12号「迷宮都市案内」
白亜の城壁には退魔の力が込められている。ただし材質は白鳥石で脆い。
神を国として奉じる宗教国家。国家指導者は法皇レダだが、実質的に国を動かすのは六名の大主教。法皇は政務に関与しないとされ、大主教ヒュレイアからは「お飾り」扱いされている。
神聖魔法は信仰の深さで出力が変動する。ライカードの定量的な魔法体系とは対照的で、応用は利くが不安定。触媒や儀式を要する場合が多く、術者の心が揺れれば威力も揺れる。聖騎士や聖女はカナンの武力だ。なお、カナンはヒト種のみで構成される。異種族の姿は見られない。このことが何を意味するかは、各自の判断に委ねる。
──迷宮都市の旅人が書き残した覚書囁く者とは何か
あなたの中に、それは既にいるかもしれない。
「それ」の正体
見た目は生白くぬらっとした卑小なヒル。踏めば潰れる。焼けば死ぬ。──だがこれは見た目通りの存在ではない。
次元間の行き来を可能にする一種の生体ゲートである。一匹では意味を為さない。ある次元からある次元へ門を開くためには膨大な数の「それ」が必要になる。だから「それ」の目的は増えることだ。多く、多く、限りなく多く増えること。それ以外の目的を「それ」は持たない。
「それ」は増える
増殖手段は寄生。宿主に取り憑き、宿主からエネルギーを搾取する。宿主が生きようとする限りその行為は「それ」を守ることにもなる。──エネルギーとは栄養に限らない。喜怒哀楽。感情。激しければ激しいほど上等の餌となる。信仰、愛、憎しみ、誇り。人間が最も尊いと思うものこそが、最も美味いらしい。
「改善」
効率的にエネルギーを得るため「それ」は宿主を「改善」していく。最初に恐怖を消す。次に哀しみを消す。すると宿主は「それ」の囁きを天啓と受け止め始める。声に従えば辛いことが消え、大きな喜びに満たされていく。──その喜びが「それ」を太らせているとも知らずに。
門が開く時
限度を超えると宿主の体内で「それ」が際限なく増殖し、最後には宿主ごと破裂する。──ぱぁん、と。
破裂の直前、宿主は正気に戻る。自分を「こんなふう」にした存在への怒り。元に戻れない哀しみ。そして恐怖。その感情の爆発が「それ」を爆発的に増殖させ、十分な数が生む膨大なエネルギーが生体ゲートとしての機能を起動させる。──つまり、絶望が門を開くのだ。
破邪の力は届かない
「それ」は善でもなければ悪でもない。だから破邪の力は何の痛痒も与え得ない。ルクレツィアほどの聖女の信仰すら「それ」にとってはむしろ良質な餌だった。強い意志は全て栄養になる。
門の向こう
歴史上ある一定の周期で大災厄が起こるのは「それ」による犠牲が繰り返され門が何度も開きかけているからだ。
アヴァロン大迷宮
潜った者だけが知っている。あの暗闇には温度がある。匂いがある。──息をしている。
松明の光が届く範囲だけが世界だった。石造りの回廊がどこまでも続き、小鬼の爪が壁を引っ掻く音がどこかで響いている。ほかにもコウモリ、巨大ナメクジ。新米探索者はここで初めて魔物の血の匂いを嗅ぎ、命の値段を覚える。
広間は魔物が出現しないセーフエリアで、新米たちの拠点として機能する。第2層への階段はその奥。洞窟苔の採取や自由討伐といった低難度の依頼がここで消化される。
地下なのに空が見えた。説明はつかない。魔力の歪みが外界を投影しているとされるが、あの空がどこの空なのかは誰も知らない。荒涼とした荒野が広がり、第1層の倍以上の面積を誇る。
アンデッドが多い。スケルトンが徘徊する荒野。ここでの採取依頼も多い。地味な花から止血剤が精製できる。
ゴツゴツした岩壁の坑道。至る所に掛けられた松明は不思議と消えない。が──その松明が作る影に、悪魔が潜んでいる。
影の悪魔。じっくり見ればわかるが、松明の数だけ影がある。光が多いほど影も増える。安心と危険が同じ源泉から生まれるという、嫌な構造。この辺から新米は遺書を書き始めたほうがいい。
側壁に装飾が施された「迷宮らしい迷宮」。明らかに人の手が入っているが建造者は不明。やけに寒く、湿った空気が流れる。墓場の空気に似ている、と誰かが言った。
赤い肌の小さい悪魔が火の玉を放ち、影に毒蛇が潜む。そろそろ腕の良い斥候が必要となってくるだろう。
通路はない。闘技場に似たすり鉢状の広間が一つ。丸みを帯びた天井、観客席に囲まれた円形の舞台。──かつて何者かがここで戦いを見物していた。そう思わせる構造だ。
敵は出ない。セーフエリア。疲弊した探索者たちはここで束の間の休息を得る。ただ、セーフエリアである──というのはあくまでも人間の価値観、線引きによるものである事をよくよく思い返すべきだ。
上層は沼地。壁沿いに植物が生い茂り、足元は緑と茶の泥に覆われ悪臭が漂う。触手の集合体と保護色のトカゲが襲ってくる。長居すれば体が蝕まれる。
下層は石の通路型回廊に変わる。二層構造。
光が死ぬ。
松明を掲げても闇に飲まれる。魔法の光も同じだ。完全な暗黒。探索者ギルドの記録にすら情報がない未踏の領域。囁き声だけが耳元で鳴り続ける。
奥にたどり着いた者は見ることになるだろう。墓石が円形に並び、中央に巨大な石棺が浮いているのを。暗黒の空間で、それだけが明瞭に見えるのだ。
生物的な質感の壁面が呼吸するように収縮を繰り返す。もはや迷宮ではない。
上位の悪魔族が跋扈する魔界。
全ての道はここに至り、ここから先はない。